竹林の管理や庭に生えてきた竹の処理において、適切な道具選びは作業効率と安全性を左右する最も重要な要素です。竹は一般的な木材とは異なり、繊維が非常に強く、中が空洞であるという特殊な構造を持っています。そのため、木材用の道具をそのまま流用すると、刃がすぐに切れなくなったり、切断面がささくれてしまったり、最悪の場合は道具が破損して使用者が怪我をするリスクさえあります。近年では、放置竹林の問題が深刻化しており、ボランティア活動や個人のDIYとして竹の伐採に取り組む人々が増加しています。それに伴い、各メーカーからは竹専用、あるいは竹の切断に特化した機能を持つ多種多様な道具が販売されるようになりました。電動工具から手工具まで、その種類は膨大であり、初心者はどれを選べばよいか迷ってしまうことも少なくありません。本記事では、竹の特性を理解した上で、どのような道具が最適なのかを体系的に解説し、安全かつ効率的に作業を進めるための知識を網羅的に提供します。
竹を切る道具のおすすめと選び方の基本
竹を切るための道具を選ぶ際には、まず竹の硬さと弾力性を理解する必要があります。竹はイネ科の植物であり、木材に見られる年輪がなく、縦方向の繊維が非常に発達しています。また、表皮にはガラス質の成分であるケイ素が含まれており、これが刃物の摩耗を早める大きな原因となります。したがって、竹を切る道具のおすすめとして挙げられるものは、基本的に高硬度の刃を持ち、繊維を断ち切る能力に長けたものです。ここでは、代表的な道具の種類と、それぞれの選び方の基準について詳細に掘り下げていきます。
竹挽き用ノコギリの特性と選び方
手動で竹を切る場合、最も一般的で手軽な道具が竹挽き用のノコギリです。一般的な木工用ノコギリとの決定的な違いは、刃のピッチ(間隔)と目立ての形状にあります。竹用のノコギリは、硬い表皮に食い込みやすくするために、刃が細かく設計されており、切断時の抵抗を減らす工夫が施されています。
まず注目すべきは「衝撃焼入れ」という加工技術です。これは刃先のみを瞬間的に加熱・冷却して硬度を高める処理のことで、ケイ素を含む硬い竹の表皮に対しても刃こぼれしにくく、長切れする性能を実現しています。竹を切る道具のおすすめとして紹介されるノコギリのほとんどに、この加工が施されています。
次に、刃の「アサリ」の有無も重要です。アサリとは、刃先が交互に外側へ開いている構造のことを指します。一般的なノコギリにはアサリがあり、これによって鋸道(切り溝)が刃の厚みよりも広くなるため、摩擦が減りスムーズに動かすことができます。しかし、竹の場合は繊維が強靭であるため、アサリが大きすぎるとバリが出やすく、切り口が汚くなる傾向があります。そのため、竹用ノコギリの中には「アサリなし(テーパー研磨)」を採用しているものも多く存在します。これは刃の中心から背に向かって薄くなるように研磨されたもので、アサリがなくても摩擦が少なく、カンナをかけたような滑らかな切り口が得られるのが特徴です。
また、替刃式かどうかも選定のポイントです。竹の切断は刃への負担が大きいため、切れ味が落ちた際に本体ごと買い替えるよりも、刃だけを交換できるタイプの方が経済的であり、環境負荷も低減できます。グリップの形状も、長時間の作業でも手が痛くなりにくいエラストマー樹脂製のものや、力を入れやすいガングリップ型のものが推奨されます。
チェンソーによる効率的な伐採
大量の竹や、直径が太い孟宗竹(モウソウチク)を伐採する場合、手動のノコギリでは体力的な限界があります。そこで選択肢となるのがチェンソーです。ただし、チェンソーであれば何でも良いわけではありません。竹を切る道具のおすすめとしてチェンソーを挙げる場合、竹専用、あるいは竹の切断に適した仕様にカスタマイズされたモデルを選ぶ必要があります。
竹の繊維はチェーンの刃に絡まりやすく、外れや故障の原因となります。そのため、竹切り用チェーン(フルカッターやセミチゼルなど)を装着することが基本です。通常の木材用チェーン(ソーチェーン)のカッター数は標準的ですが、竹用はカッターの数を2倍に増やした「フルカッター」と呼ばれるタイプが主流です。これにより、切削面が滑らかになり、竹特有の跳ね返りを抑える効果が期待できます。
動力源としては、エンジン式とバッテリー式(電動)があります。エンジン式はパワーがあり、山林の奥深くなど電源確保が難しい場所での長時間作業に適しています。排気量としては、取り回しの良さを考慮して30ccから40ccクラスが一般的です。一方、近年急速に性能が向上しているバッテリー式は、エンジン式に比べて振動や騒音が少なく、住宅地周辺での作業や早朝の作業に適しています。また、始動の手間がなくスイッチ一つで動くため、初心者や女性でも扱いやすいというメリットがあります。
ガイドバー(チェーンが回る板の部分)の形状にも注意が必要です。竹は密集して生えていることが多いため、先端が細くなった「カービングバー」が推奨されます。これにより、狭い隙間に刃を入れやすくなり、目的以外の竹を傷つけるリスクを減らすことができます。さらに、キックバック(刃が弾かれる現象)が発生しにくくなるという安全上の利点もあります。
刈払機を用いた細い竹や笹の処理
竹林整備においては、太い竹だけでなく、地面から生えてくる細い篠竹(シノダケ)や笹の処理も同時に行う必要があります。このような状況において、竹を切る道具のおすすめとして挙げられるのが、竹用チップソーを装着した刈払機(草刈機)です。
通常の草刈り用チップソーと竹用チップソーの最大の違いは、チップの埋め込み強度と配置にあります。竹は硬いため、通常のチップソーではチップが飛びやすく非常に危険です。竹用チップソーは、チップが脱落しにくいように深く埋め込まれていたり、千鳥刃(ちどりば)と呼ばれる交互配列によって切断効率を高めていたりします。
刈払機の排気量も重要です。柔らかい草を刈るだけであれば20ccクラスで十分ですが、硬い竹を切断するにはトルクが必要です。最低でも25cc以上、できれば30ccクラスの排気量を持つ機種を使用することで、エンジンの回転数を落とさずに安定した切断が可能になります。また、操作桿(竿)の強度が低いと、竹に当たった衝撃で曲がってしまうことがあるため、ジュラルミン製などの高強度なパイプを採用したモデルが適しています。
「地際(じぎわ)狩り」と呼ばれる、地面すれすれで竹を切断するテクニックを用いる場合、石や土に刃が当たる可能性が高まります。そのため、耐衝撃性に優れたチップソーを選ぶことがコストパフォーマンスの向上に繋がります。最近では、切れ味が落ちた際に自分で研磨できるタイプのチップソーも販売されており、ランニングコストを抑えたいユーザーに支持されています。
鉈(ナタ)と斧による枝打ちと粉砕
伐採した竹をそのまま放置すると、腐食が進まず、また嵩張るために邪魔になります。そこで必要となるのが、枝払いや小割にする作業です。この工程において、竹を切る道具のおすすめとなるのが鉈(ナタ)や斧です。
鉈には「両刃」と「片刃」の2種類があります。竹を割る作業には、刃が真っ直ぐに入りやすい「両刃」が適しています。片刃は食い込みが良い反面、刃が斜めに進もうとする性質があるため、竹を均等に割るには熟練の技術が必要です。また、鉈の先端に突起(石突き)がついている「海老鉈(エビナタ)」と呼ばれるタイプは、地面に打ち付けても刃先を保護できるため、屋外でのハードな使用に耐えうる設計となっています。
太い竹を割る場合には、竹割り専用の道具を使用することもありますが、汎用性を考えると斧も有効です。ただし、薪割り用の大型の斧ではなく、手斧(ハンドアックス)程度のサイズが取り回しやすく推奨されます。竹の繊維に沿って刃を入れることで、比較的軽い力で縦に裂くことができます。
これらの手工具は、電動工具と異なり燃料やバッテリーを必要とせず、メンテナンスさえ行えば半永久的に使用できる点が大きな魅力です。鋼材の種類によって切れ味や研ぎやすさが異なるため、安来鋼(やすきはがね)などの高級鋼材を使用した鍛造品を選ぶと、長く愛用できる道具となります。
状況別に適した竹を切る道具のおすすめと安全対策
道具の性能だけでなく、実際にどのようなシチュエーションで作業を行うかによっても、選ぶべき道具は変わってきます。広大な放置竹林を再生させるプロジェクトなのか、庭の景観を整える程度の作業なのか、あるいは竹細工の材料を採取するためなのか。ここでは、具体的なシーンに合わせた竹を切る道具のおすすめ選定基準と、決して軽視してはならない安全対策について解説します。
DIYや小規模な庭の手入れにおける選択
個人の庭や、家の裏手にある小規模な竹藪を整理する場合、騒音や収納場所、そして予算が選定の鍵となります。住宅地に近い場所でエンジン式のチェンソーや刈払機を使用すると、騒音トラブルに発展する可能性があります。そのため、このケースにおける竹を切る道具のおすすめは、静音性に優れたバッテリー式の電動工具、もしくは高品質な手動ノコギリです。
直径が10cm未満の竹が数本程度であれば、替刃式の竹挽きノコギリ一本で十分に対応可能です。この際、210mmから240mm程度の刃渡りのものが、操作性と切断能力のバランスが良く使いやすいでしょう。もし本数が多く、手動では疲労が激しい場合は、レシプロソー(セーバーソー)が非常に便利です。レシプロソーは、ノコギリの刃を電動で往復させる工具で、竹用のブレードを装着すれば、驚くほど簡単に竹を切断できます。チェンソーほど危険度が高くなく、キックバックのリスクも低いため、DIYユーザーには特におすすめできます。
また、切った竹をゴミとして出す場合、自治体の指定するサイズまで細かく切断する必要があります。この「玉切り」作業においても、レシプロソーや、卓上の電動丸ノコ(竹用チップソー装着)があると、作業効率は劇的に向上します。粉砕機(ガーデンシュレッダー)を導入し、チップ状にして庭のマルチング材や堆肥として活用する方法も、環境配慮の観点から注目されています。
本格的な竹林整備とプロユースの視点
数ヘクタールに及ぶ放置竹林の整備や、業務としての伐採作業を行う場合、効率と耐久性が最優先事項となります。このレベルでの竹を切る道具のおすすめは、やはり高出力のエンジンチェンソーと、プロ仕様の刈払機です。
密集した竹林では、伐倒した竹が他の竹に引っかかって落ちてこない「掛かり竹」という現象が頻発します。これを処理する際、長い柄のついた「トビ」や、ロープ牽引具(チルホールやハンドウインチ)が必要となります。切る道具だけでなく、倒すための道具もセットで考える必要があります。
また、竹林整備では、切った竹を竹炭や竹チップとして活用するケースも多いため、現場で処理できる大型の自走式粉砕機(チッパー)の導入も検討されます。これらは高価ですが、搬出の手間を大幅に削減できるため、トータルコストで見ると合理的である場合が多いです。
プロユースの場合、道具のメンテナンス性も重要です。竹の水分や樹液は金属を錆びさせやすいため、分解清掃が容易な構造であるか、交換部品がすぐに入手できるメーカー製品であるかどうかも、選定の重要なファクターとなります。
切断作業における必須の安全装備
竹を切る道具のおすすめを語る上で、安全装備(PPE:Personal Protective Equipment)についての言及は避けて通れません。竹の伐採は、木材の伐採以上に予測不能な動きをすることがあり、危険が伴います。竹は中空であるため、切断中に裂け上がったり、跳ね返ったりするリスクが高いのです。
まず、頭部を保護するヘルメットは必須です。上空からの落枝や、掛かり竹が外れて落下してきた際の衝撃から身を守ります。顔面を保護するフェイスシールド(メッシュバイザー)も、竹の破片や切り屑が目に入るのを防ぐために重要です。特に刈払機を使用する際は、高速で飛散する小石や竹片による失明事故を防ぐために必ず装着しなければなりません。
手袋に関しては、単なる軍手ではなく、振動軽減機能が付いたものや、刃物に触れても切れにくい防刃素材(ケブラーなど)を使用したグローブが推奨されます。チェンソーを使用する場合は、誤って足に刃が当たった際に回転を強制的に止める繊維が織り込まれた「チャップス」または「防護ズボン」の着用が法律や安全衛生規則で義務付けられている場合があります(業務使用の場合)。個人の作業であっても、大怪我を防ぐために着用を強く推奨します。
足元は、スパイク付きの地下足袋や、斜面でも滑りにくいスパイクブーツを選びます。竹林は傾斜地にあることが多く、切り株や落ち葉で非常に滑りやすくなっているため、足元の安定確保は作業の基本となります。
道具のメンテナンスと保管方法
竹を切る道具のおすすめ製品を手に入れたとしても、適切なメンテナンスを行わなければ、その性能はすぐに低下してしまいます。特に竹特有の問題として「ヤニ(樹液)」と「水分」があります。竹の繊維には糖分やデンプンが含まれており、これが刃に付着すると強力な粘着性を持ち、摩擦抵抗を増大させます。
作業後は必ず、ヤニ取りスプレー(アルカリ性洗浄剤など)を使用して刃に付着した汚れを完全に除去する必要があります。その後、防錆油(クレ556や椿油など)を塗布して保管します。これを怠ると、一晩で真っ赤に錆びてしまうことも珍しくありません。
チェンソーの場合、エアクリーナーの清掃も重要です。竹の切り屑は非常に細かく、エアフィルターを目詰まりさせやすいため、こまめにエアーコンプレッサーなどで吹き飛ばす必要があります。また、ソーチェーンの目立て(研磨)も、木材を切る時より高頻度で行う必要があります。竹の表皮の硬さは刃先を急速に摩耗させるため、切れ味が落ちたと感じる前に、ヤスリで軽くタッチアップすることが、常に最良の状態を保つ秘訣です。
電動工具のバッテリー保管にも注意が必要です。リチウムイオンバッテリーは、満充電のまま長期間放置したり、逆に過放電させたりすると劣化します。使用しない期間が長い場合は、適切な充電量(50%程度などメーカー推奨値)で、温度変化の少ない冷暗所に保管することが望ましいです。
竹を切る道具のおすすめに関する総括
竹を切る作業は、適切な道具選びと正しい知識があれば、安全かつ効率的に行うことができます。用途に合わない道具の使用は、作業効率を下げるだけでなく、重大な事故につながる恐れがあります。自分の作業環境、竹の太さや量、そして予算に合わせて最適なツールを選択し、万全の安全対策を講じた上で作業に臨むことが大切です。
竹を切る道具と選び方についてのまとめ
今回は竹を切る道具のおすすめと選び方についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・竹は繊維が強く中空で表皮が硬いため専用の道具選びが必須だ
・手動ノコギリは衝撃焼入れが施され目が細かいものが適している
・ノコギリの刃はアサリなしタイプが切り口を綺麗に仕上げられる
・チェンソーは竹専用のフルカッターチェーンの使用が推奨される
・狭い竹林での作業には先端が細いカービングバーが有効である
・バッテリー式チェンソーは騒音が少なく住宅地での作業に向く
・刈払機にはチップが深く埋め込まれた竹用チップソーを使う
・排気量が大きい刈払機を使うことでトルクを維持し安全に切れる
・枝払いや竹割りには両刃の鉈や手斧が作業効率を高める
・レシプロソーは手軽で安全性が高くDIYやゴミ処理に最適だ
・竹林作業ではヘルメットや防護ズボンなどの安全装備が不可欠だ
・竹は裂けたり跳ね返ったりする特性があるため予測して動く
・作業後はヤニ取りスプレーで樹液を除去し防錆対策を徹底する
・チェンソーのエアフィルターは竹の微細な粉塵で詰まりやすい
・自分の体力や作業規模に合わせた道具を選び無理なく作業する
竹林の管理は一朝一夕には終わりませんが、優れた道具は作業の負担を劇的に軽減してくれます。この記事で紹介した情報を参考に、ご自身の状況に最も適した「相棒」となる道具を見つけていただければ幸いです。安全第一で、快適な竹切り作業を行ってください。

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