桜餅の葉っぱは食べる?作り方や葉っぱの役割などを幅広く調査!

春の訪れを告げる和菓子といえば、桜餅を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。淡いピンク色の見た目と、塩漬けされた桜の葉の独特な香りは、日本の春の風物詩として古くから愛され続けています。スーパーマーケットや和菓子店の店頭に桜餅が並び始めると、ひな祭りや花見の季節が近いことを実感させられます。

しかし、この桜餅を食べる際に、多くの人が一度は抱く疑問があります。それは「桜餅の葉っぱは食べるべきなのか、それとも剥がして食べるべきなのか」という問題です。さらに、あの独特の葉っぱがどのような種類の桜から作られているのか、また家庭で桜餅を作るにはどのような手順が必要なのか、意外と知られていない事実は数多く存在します。

本記事では、桜餅の葉っぱに関する食べる・食べないのマナーや議論から、葉っぱが果たす科学的な役割、東西での桜餅の違い、そして家庭で再現できる本格的な作り方まで、桜餅にまつわる情報を網羅的に解説します。

桜餅の葉っぱは食べるべき?葉っぱの役割や種類について

桜餅を前にしたとき、一番の悩みどころとなるのが葉っぱの扱いです。塩味の効いた葉っぱと一緒に食べるのが通だという意見もあれば、葉っぱはあくまで香り付けのための包装材であり、食べるものではないという意見もあります。ここでは、マナーの観点や葉っぱそのものが持つ特性、さらには使用されている桜の品種について詳しく掘り下げていきます。

食べる派と食べない派のマナーと推奨される食べ方

結論から申し上げますと、桜餅の葉っぱを食べるか食べないかについて、絶対的な正解や厳格なマナー違反というものは存在しません。和菓子店や専門家の間でも意見は分かれており、最終的には「食べる人の好み」に委ねられているのが現状です。

葉っぱを食べる派の主張としては、甘い餅と塩漬けされた葉っぱの「甘じょっぱい」絶妙なハーモニーを楽しみたいという点が挙げられます。餡の甘さを葉っぱの塩気が引き締め、複雑で奥行きのある味わいを生み出します。また、葉っぱのパリッとした食感や、口の中に広がる桜の香りを直接楽しむことができるのも魅力です。

一方で、食べない派の意見としては、葉っぱの筋が口に残るのが不快である、塩分が強すぎて餡の繊細な味が分からなくなる、あるいは単純に葉っぱは香り付けのための「器」であるという認識を持っています。実際、一部の高級和菓子店では、桜の香りを餅に移すことを主目的としており、食べる際には葉っぱを外すことを推奨している場合もあります。

マナーの観点から言えば、どちらも間違いではありません。もし茶席などで出された場合は、黒文字(菓子切り)を使って葉っぱごと切り分けて食べても良いですし、葉っぱを綺麗に剥がして皿の端に寄せ、餅だけをいただくのも作法として認められています。重要なのは、美しく食べることです。葉っぱを残す場合は、汚らしくならないように畳んでおくなどの配慮をすると、より洗練された印象を与えます。

葉っぱが果たす3つの重要な役割と香りの成分

桜餅の葉っぱは、単なる飾りではありません。先人たちの知恵が詰まった、機能的な役割を主に3つ果たしています。

一つ目の役割は「乾燥を防ぐこと」です。桜餅の生地、特に関西風の道明寺粉を使った餅は、空気に触れるとすぐに乾燥して硬くなってしまいます。葉っぱで包み込むことによって水分の蒸発を防ぎ、しっとりとした柔らかい食感を長時間保つことができます。これはラップフィルムなどが存在しなかった時代における、天然の保湿材としての機能です。

二つ目の役割は「香り付け」です。桜餅独特のあの芳醇な香りは、生の桜の葉にはほとんどありません。葉っぱを塩漬けにする過程で、葉の細胞が壊れ、酵素が働くことによって「クマリン」という芳香成分が生成されます。このクマリンこそが、桜餅特有の甘いバニラのような香りの正体です。葉っぱで包むことにより、この香りが餅全体に移り、風味豊かな和菓子へと昇華されるのです。

三つ目の役割は「殺菌作用」です。先述した芳香成分であるクマリンや、その他の成分には抗菌作用があると言われています。冷蔵庫がなかった時代、少しでも日持ちをさせるために、殺菌効果のある桜の葉で包むという方法は非常に合理的でした。

ちなみに、香り成分であるクマリンは、大量に摂取すると肝毒性を示すことが知られていますが、桜餅に含まれる程度の量であれば、人体への影響は心配する必要はないとされています。季節の楽しみとして適量をいただく分には、健康上の問題はありません。

使用される「オオシマザクラ」の特徴と生産地

桜餅に使われている葉っぱは、私たちが花見でよく目にするソメイヨシノの葉ではありません。主に「オオシマザクラ(大島桜)」という品種の葉が使用されています。なぜオオシマザクラが選ばれるのか、それには明確な理由があります。

オオシマザクラの葉は、他の桜の品種に比べて大きく、柔らかいという特徴があります。さらに重要なのが、葉の表面に「産毛」が少ないことです。ソメイヨシノなどの葉には細かい毛が生えており、これを塩漬けにして食べると口当たりが悪く、ザラザラとしてしまいます。対してオオシマザクラの葉は滑らかで口当たりが良く、食用に最適なのです。また、クマリンの生成量が多く、香りが強いことも選ばれる理由の一つです。

この桜餅用の葉っぱの生産量日本一を誇るのは、静岡県の伊豆半島、特に松崎町周辺です。全国のシェアの大部分を占めており、春になると地元の農家の方々が葉を摘み取り、塩漬けにする作業が行われます。収穫された葉は、大きさを揃えて束ねられ、樽の中で数ヶ月から半年ほど塩漬けにされます。この熟成期間を経ることで、鮮やかな緑色は少し落ち着いた色合いになり、あの独特の甘い香りが醸成されていくのです。

関東風「長命寺」と関西風「道明寺」の違い

桜餅には大きく分けて2つの種類が存在します。関東地方で主流の「長命寺(ちょうめいじ)」と、関西地方で主流の「道明寺(どうみょうじ)」です。これらは見た目も食感も全く異なるお菓子ですが、どちらも「桜餅」と呼ばれています。

関東風の「長命寺」は、小麦粉を主原料とした生地を薄く焼き、餡をくるっと巻いたクレープ状の形状をしています。江戸時代、向島にある長命寺の門番が、落ち葉掃除に手を焼き、桜の葉を塩漬けにして餅を包んで売り出したのが発祥とされています。皮の香ばしさと滑らかな舌触りが特徴で、江戸の粋を感じさせる和菓子です。

一方、関西風の「道明寺」は、道明寺粉(もち米を蒸して乾燥させ、粗く挽いたもの)を使って作られます。つぶつぶとしたお餅のような食感があり、餡を丸ごと包んだお饅頭のような形状をしています。もちもちとした粘り気と、米の風味が強く感じられるのが特徴です。明治時代に関東へ伝わったとも言われていますが、現在では全国的に見かけるようになり、コンビニエンスストアなどで春に販売される桜餅は、この道明寺タイプが多い傾向にあります。

地域によって「桜餅」と言ったときに思い浮かべる形状が異なるのは、こうした歴史的背景と食文化の違いによるものです。現在では流通の発達により、どちらの地域でも両方の桜餅を購入できることが増えてきましたが、それぞれのルーツを知ることで、より深く味わうことができるでしょう。

自宅でできる美味しい桜餅の作り方と葉っぱの準備方法

桜餅は和菓子店で購入するものというイメージが強いかもしれませんが、実は家庭でも比較的手軽に作ることができます。特に春の季節には、製菓材料店や大きめのスーパーマーケットで桜の葉の塩漬けや道明寺粉が販売されるようになります。ここでは、葉っぱの下処理から始まり、関東風・関西風それぞれの本格的な作り方を詳述します。

桜の葉の塩漬けの選び方と塩抜きの重要性

美味しい桜餅を作るための第一歩は、質の良い桜の葉の塩漬けを入手し、適切に下処理することです。市販されている桜の葉は、真空パックに入れられていることが多いですが、選ぶ際は葉の大きさが揃っているか、変色が激しくないかを確認しましょう。

購入した桜の葉は、そのまま使うと塩辛すぎて食べられません。必ず「塩抜き」という工程が必要です。ボウルにたっぷりの水を張り、葉を優しく広げて入れます。塩抜きの時間は、商品や好みにもよりますが、一般的には15分から30分程度が目安です。あまり長く水に浸けすぎると、せっかくの桜の香り(クマリン)まで抜けてしまうため注意が必要です。

塩抜きが終わったら、キッチンペーパーなどで一枚ずつ丁寧に水気を拭き取ります。このとき、葉を破らないように優しく扱うのがポイントです。また、葉脈の硬い茎の部分が気になる場合は、ハサミで少し切り落としておくと、食べる際の口当たりが良くなります。

関東風「長命寺」の本格レシピと焼くコツ

関東風の長命寺桜餅は、薄く焼いた生地の美しさが命です。フライパンやホットプレートを使って作ることができます。

【材料(約8個分)】

薄力粉:50g

白玉粉:10g

砂糖:20g

水:100ml

食紅:少々

こしあん:200g

桜の葉の塩漬け:8枚

【作り方】

まず、こしあんを8等分にして丸めておきます。次に生地作りです。ボウルに白玉粉を入れ、分量の水の一部を少しずつ加えながらダマにならないように溶かします。白玉粉が完全に溶けたら、残りの水、砂糖、そしてごく少量の水で溶いた食紅を加えて混ぜ合わせます。ピンク色は加熱すると少し濃くなるため、生地の段階では「薄すぎるかな」と思うくらいの淡い色にするのがコツです。

そこにふるった薄力粉を加え、粉っぽさがなくなるまで混ぜます。混ぜ終わったら、生地をザルで一度こすと、より滑らかな口当たりになります。その後、常温で15分ほど生地を休ませます。これにより、粉と水分が馴染み、モチモチとした食感が生まれます。

焼く工程では、フライパンを弱火で熱し、薄く油を引いて余分な油をキッチンペーパーで拭き取ります。生地を楕円形に薄く流し入れ、表面が乾いてきたら裏返してさっと焼きます。焼きすぎると固くなって巻けなくなるため、焼き色がつかない程度にするのがポイントです。焼き上がった生地は乾燥しないようにラップなどをかけて冷まし、最後に餡を包んで桜の葉を巻けば完成です。葉の表(筋が盛り上がっていない方)を外側にすると、見た目が美しく仕上がります。

関西風「道明寺」の本格レシピと蒸し方のポイント

関西風の道明寺桜餅は、電子レンジを使えば蒸し器がなくても簡単に作ることができます。もちもちとした食感が魅力です。

【材料(約8個分)】

道明寺粉:150g

砂糖:30g

熱湯:200ml

食紅:少々

こしあん(またはつぶあん):200g

桜の葉の塩漬け:8枚

【作り方】

下準備として、餡を8等分にして丸めておきます。耐熱ボウルに道明寺粉と砂糖を入れ、軽く混ぜ合わせます。別の容器で熱湯に食紅を溶かし、好みのピンク色にします。この色水を道明寺粉の入ったボウルに注ぎ、木べらでよく混ぜます。

ボウルにラップをかけ、10分ほど置いて水分を道明寺粉に吸わせます。その後、再びラップをしたまま電子レンジ(600W)で約3分〜4分加熱します。加熱ムラを防ぐため、途中で一度取り出して全体を混ぜるとなお良いでしょう。加熱が終わったら、そのまま庫内または常温で10分ほど蒸らします。この「蒸らし」の時間が、芯のないふっくらとした餅を作るために非常に重要です。

蒸らし終わった生地を木べらで混ぜて粘りを出し、8等分にします。手に水をつけながら生地を広げ、餡を包み込みます。道明寺粉は手にくっつきやすいため、手水(てず)を適宜使うのが作業をスムーズにするコツです。形を整えたら、桜の葉で包んで完成です。関西風の場合は、葉の裏(筋が盛り上がっている方)を外側に巻くこともありますが、基本的には好みで構いません。

保存方法と美味しく食べるための期間

手作りの桜餅は、保存料が入っていないため、作ったその日のうちに食べるのが最も美味しい状態です。時間が経つと、餅(特に道明寺)が硬くなったり、長命寺の皮がパサついたりします。もし翌日まで保存する場合は、乾燥を防ぐために一つずつラップで包み、密閉容器に入れて常温(涼しい場所)で保存します。冷蔵庫に入れるとデンプンが老化して硬くなってしまうため、避けるのが賢明です。

どうしても長期保存したい場合は、一つずつラップに包んで冷凍保存することも可能です。食べる際は常温で自然解凍することで、ある程度の風味と食感を戻すことができます。しかし、桜の葉の香りは揮発性があるため、やはり作りたての香りが一番のご馳走と言えるでしょう。

桜餅の葉っぱと作り方に関するまとめ

桜餅の葉っぱと手作りに関する要約

今回は桜餅の葉っぱを食べるかどうかの議論や、その役割、そして家庭での作り方についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。

・桜餅の葉っぱを食べるか食べないかに正解はなく個人の好みに委ねられる

・葉っぱと一緒に食べることで甘味と塩味の対比や香りを強く楽しめる

・葉っぱを食べない場合は剥がして皿の端に置くのがマナーとしてスマートである

・葉っぱには餅の乾燥を防ぐ保湿効果と雑菌の繁殖を抑える抗菌作用がある

・特有の香りは塩漬けによって生成されるクマリンという成分によるものである

・使用される葉の多くは産毛が少なく柔らかいオオシマザクラである

・葉の主な生産地は静岡県の伊豆半島であり松崎町が有名である

・関東風の長命寺は小麦粉を使ったクレープ状の生地が特徴である

・関西風の道明寺は道明寺粉を使ったつぶつぶとした餅の食感が特徴である

・家庭で作る際は葉の塩抜き時間を調整し香りを残すことが重要である

・長命寺を作る際は生地を焼きすぎずしっとり仕上げることがポイントである

・道明寺を作る際は電子レンジを活用し十分に蒸らすことで柔らかくなる

・手作りの桜餅は保存料がないため常温保存で当日中に食べるのが望ましい

・冷蔵保存は餅が硬くなる原因となるため避けたほうが良い

・冷凍保存をする場合は個別にラップし自然解凍で食べるのが適切である

桜餅は、単なる甘味としてだけでなく、葉っぱ一枚にも日本の食文化や歴史、そして先人の知恵が詰まっています。

食べる派の方も食べない派の方も、その背景にある役割や意味を知ることで、春のひとときをより豊かに感じられるのではないでしょうか。

今年の春は、ぜひご自宅で手作りの桜餅に挑戦し、自分好みの味と香りを楽しんでみてください。

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