私たちの日常生活において、スケジュール管理は欠かせません。カレンダー、手帳、ビジネスメール、スマートフォンのアプリなど、あらゆる場面で「曜日」を目にします。その際、特に英語圏とのやり取りや英語のシステム上では、曜日はしばしば短い「短縮形」で表記されます。
月曜日(Mon)、水曜日(Wed)、金曜日(Fri)などは直感的で迷うことが少ないかもしれません。しかし、多くの人が一度は疑問に思うのが「木曜日」の表記です。
「T」から始まる曜日は「Tuesday(火曜日)」と「Thursday(木曜日)」の二つが存在します。カレンダーアプリで「Thu」と書かれているのを見たかと思えば、別の資料では「Thurs」と表記されていることもあります。また、「Thur」という表記を見かけたことがあるかもしれません。
一体、木曜日の英語の短縮形として「正しい」のはどれなのでしょうか。なぜ複数の表記が存在し、どのように使い分けられているのでしょうか。また、ピリオド(.)は必要なのでしょうか。
この記事では、「木曜日」「英語」「短縮」というキーワードに焦点を当て、これらの疑問を徹底的に解消します。標準的な表記法から、その背景にある火曜日との関係、さらには「Thursday」という単語の興味深い語源に至るまで、客観的な情報に基づいて幅広く調査し、その全貌を解き明かしていきます。
木曜日の英語の短縮形—正しい表記と使われる文脈
木曜日の英語表記「Thursday」には、複数の短縮形が存在し、それぞれが特定のルールや文脈に基づいて使用されています。どの表記が最も標準的で、他はどのように使われているのかを詳しく見ていきましょう。
最も標準的な「木曜日」の英語の短縮形「Thu」
現在、国際的に最も広く標準的(スタンダード)とされている木曜日の英語の短縮形は「Thu」です。
この「3文字表記」は、多くの理由からデファクトスタンダード(事実上の標準)として機能しています。
- システム上の合理性:コンピュータシステムやデータベースにおいて、データを固定長で扱うことは非常に重要です。「3文字」という統一された長さは、プログラミングやシステム設計において非常に効率的です。月曜日(Mon)、火曜日(Tue)、水曜日(Wed)、木曜日(Thu)、金曜日(Fri)、土曜日(Sat)、日曜日(Sun)と、すべての曜日を3文字で過不足なく表現できます。
- 明確な識別性:曜日の短縮形で最も重要なのは「他の曜日と混同しないこと」です。特に「T」で始まる火曜日(Tuesday)と木曜日(Thursday)の区別が最大の課題となりますが、火曜日を「Tue」、木曜日を「Thu」とすることで、3文字で明確に両者を識別することが可能になります。
- スタイルガイドによる推奨:APスタイル(AP Stylebook、アメリカの報道機関向けスタイルガイド)やAPAスタイル(アメリカ心理学会)など、多くの権威ある英語のスタイルガイド(表記ルール集)が、カレンダーや表組みなどスペースが限られた場所での使用において、この3文字表記を標準として推奨、あるいは許容しています。
このため、ビジネス文書、カレンダーアプリのUI(ユーザーインターフェース)、航空券の予約確認、公的な統計データ、ニュース記事の表など、明確性とスペース効率が求められるフォーマルな文脈や国際的な文脈では、「Thu」が最も一般的に使用される短縮形となっています。
「Thurs」という4文字表記の存在と使われ方
「Thu」が最も標準的である一方で、「Thurs」という4文字の短縮形も、英語圏では非常に一般的に使われています。
この表記が使われる背景には、以下のような理由が考えられます。
- 火曜日「Tues」との対称性:「T」で始まるもう一方の曜日である火曜日(Tuesday)には、「Tues」という4文字の短縮形も広く使われています(これは「Tue」と同様、あるいはそれ以上に一般的とされることもあります)。これと対になる形で、木曜日も「Thurs」と4文字で表記することで、視覚的なバランスや一貫性を保つことができます。
- (Tue / Tues) vs (Thu / Thurs)
- 発音との関連性:「Thursday」(発音記号: /ˈθɜːrzdeɪ/)の発音において、「Thurs」は「Thu」よりも発音の区切りとして自然に感じられる側面があります。
- 視認性の向上:「Thu」という3文字表記は、特にフォントやデザインによっては「Tue」と瞬時に見分けるのが難しい場合があります。その点、「Thurs」は4文字であり、最後の「s」が付くことで、「Tues」との視覚的な違いがより明確になります。
「Thurs」は、「Thu」よりもわずかにインフォーマル(非公式)なニュアンスを持つことがありますが、間違いでは全くありません。むしろ、手書きのメモ、日常的なメール、地域コミュニティの掲示板、一部の新聞や雑誌など、システム的な制約よりも読みやすさや慣習が優先される文脈で好んで使われる傾向があります。
「Thur」という表記は一般的か?
では、「Thur」という表記はどうでしょうか。
結論として、「Thur」という3文字表記は、一般的ではありません。
「Thursday」の最初の4文字は「Thur」であるため、機械的に4文字(あるいは3文字)を切り取ると「Thur」になりそうですが、この表記が標準的な短縮形として使われることは稀です。
その理由は、やはり火曜日(Tuesday)との関係、そして標準となった「Thu」の存在にあります。
- 前述の通り、火曜日との区別を明確にするため、3文字表記の標準は「Tue」と「Thu」の組み合わせに収束しました。
- もし木曜日を「Thur」と表記した場合、火曜日「Tue」との文字数の統一感(どちらも3文字)は取れますが、なぜ「Thu」ではなく「Thur」なのかという合理的な説明(例えば、発音や綴り上の優位性)が「Thu」に比べて弱いです。
もし「Thur」という表記を見かけたとすれば、それは書き手の個人的な癖や、特定の組織内でのローカルルール、あるいは単純な誤りである可能性が考えられます。公的な文書や国際的なコミュニケーションにおいて、木曜日の短縮形として「Thur」を選択することは避けるのが賢明です。
ピリオドの要不要問題—「Thu.」や「Thurs.」のルール
短縮形を使用する際、もう一つの悩ましい問題が「ピリオド(.)を付けるかどうか」です。カレンダーなどで「Thu.」や「Thurs.」といった表記を目にすることもあります。
このルールは、主に**アメリカ英語(AE)とイギリス英語(BE)**のスタイルガイドの違いに起因します。
- アメリカ英語(AE)の伝統的なスタイル:アメリカ英語の伝統的な文法ルールでは、単語を短縮した「短縮形(abbreviation)」には、原則としてピリオドを打つことが求められます。(例: Mr., Dr., Sept., Mon., Tue., Thu., Thurs.)このルールに従えば、木曜日の短縮形は「Thu.」または「Thurs.」と表記するのが正式とされてきました。
- イギリス英語(BE)のスタイル(および現代の主流):イギリス英語では、「短縮形(abbreviation)」の中でも、元の単語の最後の文字で終わる「省略形(contraction)」にはピリオドを付けないというルールが主流です(例: Mr, Dr)。この考え方が拡張され、曜日や月の名前の短縮形についても、ピリオドを省略する傾向が非常に強くなっています(例: Mon, Tue, Thu, Thurs)。
- 現代における結論:現代においては、米英問わず、ピリオドを**省略する表記(Thu, Thurs)**が圧倒的に主流となっています。これは、特にデジタルメディア(ウェブサイト、アプリ、メール)において、ピリオドが視覚的にノイズ(余計な情報)と見なされたり、デザインのミニマリズム(簡潔さ)が好まれたりするためです。また、ピリオドの有無によるシステム上のエラーを避ける意味合いもあります。
したがって、現代のビジネスや日常的なコミュニケーションにおいては、ピリオドは付けずに「Thu」または「Thurs」と表記するのが最も一般的かつ無難な選択と言えます。ただし、特定のスタイルガイド(例えば、学術論文や特定の出版物)に従う必要がある場合は、そのルール(例:「Thu.」とせよ)を確認する必要があります。
木曜日の英語の短縮形が持つ背景と他の曜日との比較
木曜日の短縮形が「Thu」や「Thurs」となった背景には、英語の曜日のシステム全体、特に「Tuesday(火曜日)」との関係、そして「Thursday」という単語自体の成り立ちが深く関わっています。
なぜ木曜日は「Thu」なのか?— 火曜日「Tuesday」との決定的関係
英語の曜日表記において、最大の課題は「Tで始まる曜日が二つある」という点です。
- Tuesday(火曜日)
- Thursday(木曜日)
もし、他の多くの曜日(Monday → Mon, Wednesday → Wed, Friday → Fri)と同じように、単純に「最初の2文字」や「最初の3文字」を機械的に切り出すルールを適用しようとすると、破綻が生じます。
- 2文字ルールの場合:
- Tuesday → Tu
- Thursday → Thこの「Tu」と「Th」は、一見すると区別できるように見えます。しかし、手書きの場合やフォントによっては瞬時に見分けにくい場合があります。また、システム上、「T」で始まるという共通項が混乱を招く可能性があります。
- 3文字ルール(機械的)の場合:
- Tuesday → Tue
- Thursday → Thuこれは、まさに現在標準となっている組み合わせです。この「Tue」と「Thu」という組み合わせが、アルファベット3文字という統一された長さの中で、両者を明確に区別する最も合理的かつ効率的な方法として、広く受け入れられました。
もし火曜日の3文字表記が「Tue」ではなく「Tus」(Tuesdayの最初の3文字ではないが、発音/tjuːz/に近い)や、木曜日が「Thur」であったなら、また別の組み合わせが標準になっていたかもしれません。しかし、歴史的に「Tue」と「Thu」という組み合わせが、識別性と効率性のバランスが取れた「最適解」として定着したのです。
この「T問題」と同様に、土曜日(Saturday)と日曜日(Sunday)も「S問題」(両方ともSで始まる)を抱えていますが、こちらは「Sa」と「Su」という2文字、あるいは「Sat」と「Sun」という3文字で、比較的容易に区別が可能です。最も深刻なのが「T問題」であり、その解決策が「Thu」という表記に結実しているのです。
「Thursday」の語源—北欧神話の雷神「トール」
木曜日の短縮形が「Th」を含む「Thu」や「Thurs」となったのは、そもそも「Thursday」という単語の綴りが「Th」で始まるためです。では、なぜ火曜日(Tuesday)と紛らわしいにもかかわらず、木曜日は「Th」で始まるのでしょうか。
その答えは、英語の曜日の名前に隠された、ゲルマン民族の神話とローマ神話の融合にあります。
英語の曜日名は、ローマ帝国で使われていたラテン語の曜日名(ローマ神話の神々や天体に基づく)が、ゲルマン民族(アングロ・サクソン人など、現代のイギリス人やドイツ人の祖先)の言語(古英語や古ノルド語)に取り入れられる際に、彼ら自身の神々の名前に「翻訳」された結果、成立しました。
- Thursday は、古英語の「Þūnresdæg」(フンレスダエグ)に由来します。
- これは「Þunor」(フノー/トール)の「日(day)」を意味します。
- この「トール(Thor)」とは、北欧神話やゲルマン神話に登場する、雷と力、そして豊穣を司る最強の神です。彼は「ミョルニル」と呼ばれる魔法のハンマー(槌)を武器とします。
では、なぜ「トール」が木曜日に割り当てられたのでしょうか。
それは、ラテン語で木曜日が「dies Iovis」(ディエス・ヨウィス)=「ユピテル(Jupiter)の日」であったためです。
ローマ神話の最高神であるユピテル(英語読みでジュピター)は、ギリシャ神話のゼウスに相当し、天空の神であり、「雷」を武器とします。
ゲルマン民族は、このローマの「雷の神ユピテル」に相当する存在として、自分たちの「雷の神トール」を当てはめ、木曜日を「トールの日(Thursday)」と呼ぶようになったのです。
この「トール(Thor)」の「Th」という綴りが、現代の「Thursday」にまで受け継がれ、結果として火曜日(Tuesday)との区別のために「Thu」という短縮形を生み出す原因となったのです。
ちなみに、火曜日(Tuesday)も同様に、ローマ神話の「マルス(火星、軍神)の日」が、ゲルマン神話の軍神「テュール(Tiu)」に置き換えられ、「Tiu’s day」=「Tuesday」となったとされています。
他の曜日との短縮形一覧(3文字・4文字・1~2文字)
木曜日の短縮形の位置づけをより明確にするため、他の曜日も含めた短縮形の一覧を比較してみましょう。
| 曜日(日本語) | 英語(Full) | 標準的な3文字短縮 | 一般的な4文字短縮 | その他の短縮形(1~2文字) |
| 月曜日 | Monday | Mon | (Mond) | M, Mo |
| 火曜日 | Tuesday | Tue | Tues | T, Tu |
| 水曜日 | Wednesday | Wed | Weds | W, We |
| 木曜日 | Thursday | Thu | Thurs | T, Th, R |
| 金曜日 | Friday | Fri | (Frid) | F, Fr |
| 土曜日 | Saturday | Sat | (Satu) | S, Sa |
| 日曜日 | Sunday | Sun | (Sund) | S, Su |
この表から、いくつかの重要なパターンが読み取れます。
- 3文字表記の優位性:「Mon」「Tue」「Wed」「Thu」「Fri」「Sat」「Sun」は、すべて3文字で完結しており、相互に混同の恐れがない、非常に優れたシステムであることがわかります。これが「Thu」が標準である最大の理由です。
- 4文字表記のペア:火曜日「Tues」と木曜日「Thurs」は、4文字表記としてペアで使われることが多いです。また、水曜日「Weds」も非常によく使われます。他の曜日(Mon, Friなど)は4文字表記が一般的ではありません。
- 1~2文字表記の限界:スケジュール管理アプリなどで、さらにスペースを節約するために1文字や2文字の表記が使われることがあります。
- 1文字表記: M, T, W, T, F, S, Sこの場合、「T」が火曜日と木曜日で重複し、「S」が土曜日と日曜日で重複するという、致命的な問題が発生します。
- 2文字表記: Mo, Tu, We, Th, Fr, Sa, Suこの組み合わせは、火曜日(Tu)と木曜日(Th)が明確に区別でき、土曜日(Sa)と日曜日(Su)も区別できるため、3文字表記に次いで合理的なシステムです。
- 「R」の謎:1文字表記の「T」の重複を避けるため、一部のシステム(特に欧州の鉄道や航空業界など)では、火曜日を「T」、木曜日を「R」と表記する独自のルールが採用されていることがあります。なぜ「R」なのかについては諸説ありますが、「Thursday」の4番目の文字である「R」を取ったという説や、ラテン語圏(フランス語のJeudi, イタリア語のGiovedìなど、木曜日はJやGで始まる)との互換性、あるいは単純にT, U, V, W…と続くアルファベットの中で重複しない文字として選ばれたなど、明確な理由は定まっていませんが、混同を避けるための工夫の一つです。
木曜日の英語の短縮形を正しく使い分けるための総括
木曜日の英語短縮形に関する知識のまとめ
今回は木曜日の英語の短縮形についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・木曜日の英語は「Thursday」である
・木曜日の英語の短縮形で最も標準的なものは「Thu」である
・「Thu」は3文字表記のルールに基づくものであり、システム上も合理的である
・「Thurs」という4文字表記も広く一般的に使用される
・「Thur」という表記は一般的ではないため、使用は推奨されない
・曜日の短縮形は、火曜日「Tuesday」との混同を避ける必要性が最も高かった
・火曜日は「Tue」、木曜日は「Thu」とすることで3文字で明確に区別される
・4文字表記では、火曜日「Tues」、木曜日「Thurs」が対応するペアとして使われることがある
・短縮形にピリオド「.」を付けるか否かは、スタイルガイドや地域(米英)によって異なる
・アメリカ英語では「Thu.」や「Thurs.」とピリオドを打つのが伝統的であった
・イギリス英語や現代のデジタル表記では、ピリオドを省略する「Thu」や「Thurs」が主流である
・「Thursday」の語源は、北欧神話の雷神「トール(Thor)」に由来する
・「Thor’s day(トールの日)」が「Thursday」の元となった
・これは、ローマ神話の「ユピテル(雷神)の日」に、ゲルマン神話のトールを当てはめた結果である
・1文字や2文字表記では「T」や「Th」となり、火曜日と区別が困難な場合がある
・システムによっては、木曜日を「R」と表記して火曜日の「T」との重複を避けることがある
木曜日の英語の短縮形には、単なる省略ではなく、火曜日との混同を避けるための明確で合理的なルールが存在していることがわかります。
カレンダーやビジネス文書、日常のスケジュール管理などで表記に迷った際は、最も標準的で国際的に通用する「Thu」を使用するか、あるいは文脈やデザインのバランスに応じて「Thurs」を選ぶのが良いでしょう。
この記事が、英語の曜日表記に関する皆様の疑問を解消し、よりスムーズなコミュニケーションを実現するための一助となれば幸いです。

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