日本の森林を守る取り組みは進んでいる?官民一体の活動実態を幅広く調査!

日本は国土の約3分の2、およそ67%が森林に覆われた世界有数の森林大国である。この豊かな緑は、美しい景観を形成するだけでなく、水源のかん養、土砂災害の防止、二酸化炭素の吸収による地球温暖化対策、そして生物多様性の保全といった多面的な機能を発揮し、私たちの安全で快適な生活を根底から支えている。しかし、一見すると平穏に見える日本の森も、その内部では深刻な危機が進行していることをご存知だろうか。戦後の復興期や高度経済成長期に植林されたスギやヒノキなどの人工林が、本格的な利用期を迎えているにもかかわらず、林業の採算性の悪化や担い手不足により、手入れされずに放置される事態が相次いでいるのである。管理が行き届かない森林は、木々が過密になり根が弱ることで災害リスクを高め、生物多様性を低下させ、本来の公益的機能を十分に発揮できなくなってしまう。

こうした状況を打破し、次世代へ健全な森林を引き継ぐために、現在日本国内では国や地方自治体、民間企業、NPO、そして地域住民が主体となった多種多様な「森林を守る取り組み」が展開されている。従来のような「木を植える」だけの活動から、「木を使い、循環させる」活動へ、そして最新テクノロジーを駆使したスマートな管理へと、その手法や概念は大きく進化している。本記事では、日本の森林が直面している構造的な課題を踏まえた上で、現在進行形で行われている具体的な施策や活動の実態について、制度、経済、技術、市民活動といった幅広い視点から徹底的に調査し解説していく。

行政と法律が主導する日本国内の森林を守る取り組み

日本の森林問題は、個人の所有者や一企業の努力だけで解決できる規模を超えており、国レベルでの法整備や財政支援、そして地方自治体による現場での管理体制構築が不可欠である。近年、日本政府は森林・林業政策を大きく転換させ、数十年に一度とも言われる抜本的な改革を断行している。ここでは、法律に基づき組織的に行われている公的な森林を守る取り組みについて、その仕組みと狙いを詳しく見ていく。

森林環境譲与税の導入と地方自治体による新たな管理体制の構築

2019年度から日本で新たに導入された「森林環境譲与税」は、国内の森林を守る取り組みにおける最大のトピックの一つである。これは、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るために、森林整備に必要な財源を安定的に確保することを目的としている。その原資となるのは、2024年度から国民一人当たり年額1000円が徴収される「森林環境税」であり、これが国税として集められた後、私有林人工林の面積や林業就業者数、人口などに応じて、国から都道府県および市町村へ譲与される仕組みとなっている。

この新税の導入背景には、所有者の高齢化や不在村化が進み、手入れがなされないまま放置される森林が増加しているという切実な事情がある。これまで資金不足やマンパワー不足を理由に十分な対策が打てなかった地方自治体にとって、森林環境譲与税は待望の財源となった。この税収を活用することで、市町村は自らが主体となって森林所有者への意向調査を行ったり、間伐などの整備を代行したりすることが可能になったのである。

具体的な活用事例としては、荒廃した人工林の間伐や搬出作業への助成はもちろんのこと、林道や作業道の開設・改良といったインフラ整備、さらには将来の林業を担う人材の育成や確保にも資金が投入されている。また、森林が少ない都市部の自治体においても、この税収を活用して国産材を使った公共施設の建築、学校での木育(もくいく)の推進、水源地域の自治体との交流事業などが行われており、都市と地方が連携して森林を支える循環型の取り組みが生まれ始めている。単にお金を配るだけでなく、その使い道を明確にし、地域の実情に合わせた柔軟な運用を促すことで、日本全国の森林管理レベルを底上げしようという国家的なプロジェクトが進行中である。

森林経営管理制度による所有者不明土地問題への公的介入

森林環境譲与税とセットで車の両輪として機能しているのが、同じく2019年にスタートした「森林経営管理制度」である。これは、適切な経営管理が行われていない森林について、市町村が仲介役となり、林業経営に適した森林は意欲と能力のある林業経営者へと集積・集約化し、採算が合わず経営が困難な森林については市町村自らが管理を行うという画期的な制度である。

日本の森林所有構造は極めて零細であり、小規模な所有者がパッチワークのように土地を保有しているケースが多い。さらに、相続登記がなされないまま世代交代が進んだ結果、誰が持ち主か分からない「所有者不明森林」や、持ち主が分かっていても境界が不明確で手出しができない森林が急増している。このような状況では、大規模かつ効率的な施策を行うことができず、森林の荒廃に歯止めがかからない。

森林経営管理制度では、まず市町村が森林所有者に対して「今後どのように森を管理したいか」という意向調査を行うことから始まる。そこで「自分では管理できない」「手放したい」という回答があった場合、あるいは回答がない場合でも、市町村が現地調査を行い、手続きを経て経営管理権を設定することができる。これにより、所有者の同意が得にくい土地でも、公的な権限で必要な間伐や伐採を行う道が開かれたのである。

特に注目すべきは、経済ベースには乗らないが、防災や環境保全の観点から守らなければならない森林を、市町村が直接管理するスキームである。ここでは、皆伐(全伐採)した後に再造林を行うのではなく、広葉樹を導入して自然に近い「針広混交林」へと誘導していく育成複層林施策などが取られることが多い。これは、単なる木材生産の場としてではなく、国土保全の要としての森林機能を回復させるための重要な取り組みであり、行政が責任を持って「守る」姿勢を明確にした制度と言える。

公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律とCLTの普及

森林を守るためには、木を「切らない」ことではなく、適切に「切って、使って、また植える」というサイクルを回すことが重要である。特に日本では、戦後に植えられた人工林が収穫期を迎えており、この豊富な資源を有効活用することが、森林の新陳代謝を促し、健全性を保つための鍵となっている。そこで国が力を入れているのが、木材需要の創出、特に建築物における木材利用の促進である。

2010年に施行され、その後改正された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、公共建築物のみならず、民間建築物も含めた木材利用を強力に後押しするものである。かつては、防火地域などでの木造建築には厳しい制限があったが、耐火技術の向上や建築基準法の改正により、現在では中高層ビルや大型商業施設でも木造化が可能となっている。

この動きを技術面で支えているのが、CLT(CrossLaminatedTimber:直交集成板)という新しい木質材料である。CLTは、ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した厚型パネルであり、コンクリート並みの強度と断熱性、そして施工の早さを兼ね備えている。ヨーロッパで開発されたこの技術を日本規格として導入し、普及させることで、これまで木材が使われてこなかった非住宅分野や中高層建築分野での国産材利用が現実のものとなった。

都市部に木造建築が増えることは、山村の経済を潤すだけでなく、都市そのものを「第二の森林」に変えることを意味する。木材は炭素を固定し続けるため、鉄やコンクリートの代わりに木を使うことは、街の中に炭素を貯蔵することに他ならない。行政は、設計段階からの補助金支給や、先導的なモデル事業の支援を通じて、この「都市の木造化」を推進しており、需要側から森林を守るという経済的なアプローチを強化している。

スマート林業の推進とICT技術を活用した効率的な資源管理

人口減少と少子高齢化が進む日本において、森林を守るための実働部隊である林業従事者の不足は深刻な課題である。危険できついというイメージが強い林業の現場を変革し、少ない人数でも効率的かつ安全に森林管理を行えるようにするために、国や研究機関、企業が連携して推進しているのが「スマート林業」である。これは、ICT(情報通信技術)、ロボット技術、AI(人工知能)などを林業のあらゆるプロセスに導入する取り組みである。

例えば、ドローンとレーザー計測技術(LiDAR)を活用した森林資源調査が急速に普及している。上空からレーザーを照射することで、地上の地形データだけでなく、一本一本の木の位置、高さ、直径、さらには樹種までも高精度に解析し、3次元マップを作成することができる。従来は人が急斜面を歩き回って行っていた調査が、短時間で、かつデスクワークとして完了するようになり、森林管理の計画策定が飛躍的に効率化した。

また、高性能林業機械の自動化や遠隔操作化も進んでいる。通信機能を搭載したハーベスタ(伐採・造材機)やフォワーダ(集材機)は、作業の進捗状況や生産量データをリアルタイムでクラウドに送信し、サプライチェーン全体で情報を共有することを可能にする。これにより、市場の需要に合わせた無駄のない生産計画が可能となり、木材価格の安定化や収益性の向上に寄与している。

さらに、山間部での通信インフラ整備が進めば、労働災害が発生した際の迅速な通報システムの構築や、ウェアラブル端末を用いた作業員の健康管理など、安全面での取り組みも強化される。テクノロジーの力で林業を「カッコよくて稼げる産業」に変えることは、結果として担い手を確保し、日本の森林を持続的に守り続けるための必須条件となっているのである。

企業や市民団体が展開する独自の森林を守る取り組み

行政による制度設計が「枠組み作り」であるならば、その中で実際に汗を流し、知恵を絞って活動を展開しているのが民間企業や市民団体である。近年、企業の社会的責任(CSR)やSDGs(持続可能な開発目標)への意識の高まりを背景に、ビジネスの現場や市民生活の中でも、森林保全活動が活発化している。ここでは、民間セクターが主導するユニークで先進的な取り組みに焦点を当てる。

企業の森活動とCSRからCSVへと進化する環境経営モデル

多くの企業が、社会貢献活動の一環として「企業の森」と呼ばれる森林保全活動を行っている。これは、企業が自治体や森林所有者と協定を結び、資金や社員ボランティアを提供して植林や下草刈り、間伐などの作業を行うものである。かつては、単なる寄付行為やイメージアップ戦略としての側面が強かったが、近年ではその質が大きく変化し、本業とのシナジーを追求するCSV(CreatingSharedValue:共有価値の創造)の視点を取り入れた活動へと進化している。

例えば、飲料メーカーであれば、良質な水を確保するために工場の水源域にある森林を保全する「水源林活動」を事業の生命線として位置づけている。水文学的な科学的根拠に基づき、針葉樹と広葉樹が混在する豊かな森づくりを行うことで、地下水の涵養機能を高め、持続可能な生産体制を構築しているのである。製紙会社や住宅メーカーも同様に、自社の製品の原料となる森林を自ら管理・育成し、持続可能なサプライチェーンを確立することに注力している。

また、カーボンニュートラル宣言を行う企業が増える中で、森林によるCO2吸収量をクレジットとして認証し、自社の排出量と相殺する「カーボン・オフセット」や「Jクレジット制度」の活用も活発化している。企業がお金を出すことで森林整備が進み、その対価として環境価値(CO2吸収量)を受け取るという経済的な取引が成立することで、森林保全活動にビジネスとしての正当性と持続可能性が生まれている。さらに、社員研修の場として森林を活用し、チームビルディングや環境意識の啓発を行う企業も増えており、森林を守る取り組みは企業経営の一部として完全に統合されつつある。

サプライチェーン全体での責任ある木材調達と森林認証制度

森林を守るためには、現場での活動だけでなく、市場での流通において「正しい木材」が選ばれる仕組みが必要である。違法伐採された木材や、環境破壊を伴う開発によって生産された木材を排除し、適切に管理された森林から産出された木材のみを扱うようにする取り組みが「責任ある木材調達」である。これを客観的に証明するツールとして、FSC(ForestStewardshipCouncil)やPEFC(ProgrammefortheEndorsementofForestCertification)、そして日本独自のSGEC(SustainableGreenEcosystemCouncil)といった「森林認証制度」が重要な役割を果たしている。

企業が自社の製品、例えばコピー用紙、家具、包装資材、住宅建材などに認証材を使用するためには、その木材が認証された森林から産出されたものであることを証明するCoC認証(ChainofCustody)を、加工・流通の各段階で取得しなければならない。これは非常に手間とコストがかかるプロセスであるが、近年では大手スーパーマーケット、ファストフードチェーン、オフィス用品メーカーなどが積極的に認証製品の採用を進めている。

消費者が普段何気なく手に取る商品に付いている認証マークは、その企業が森林を守るためにコストを支払っている証である。企業側も「調達方針」を公開し、サプライヤーに対してトレーサビリティ(追跡可能性)の確保を求める動きを強めている。特に2017年に施行された「クリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)」は、木材関連事業者に対して合法性の確認を促すものであり、企業のコンプライアンス意識を高める契機となった。このように、ビジネスの取引条件として「環境への配慮」を組み込むことで、経済の力を使って森林破壊の連鎖を断ち切る取り組みが日本でも定着しつつある。

NPOやボランティアによる里山保全活動と生物多様性の再生

行政や大企業の活動が行き届きにくい、身近な里山や都市近郊林を守っているのが、NPO法人や地域住民によるボランティア活動である。かつて薪炭林として利用されていた里山は、化石燃料の普及とともに利用価値を失い、竹林の侵食や不法投棄によって荒廃が進んでいる場所が多い。こうした里山は、人里と奥山の境界線として野生動物との緩衝地帯の役割を果たしているほか、希少な動植物の生息地としても極めて重要である。

全国各地で活動するNPOや市民団体は、定期的に下草刈りや竹の伐採を行い、里山を明るく健全な状態に戻す活動を地道に続けている。単に草を刈るだけでなく、伐採した竹を竹炭や竹パウダーにして農業利用したり、チップ化して遊歩道の舗装材に使ったりと、資源として循環させる知恵も実践されている。また、子供たちを対象とした自然観察会やクラフト教室を開催し、次世代へ里山の価値を伝える「木育」の担い手としても欠かせない存在である。

さらに、「ナショナルトラスト運動」のように、市民からの寄付金を集めて開発の危機にある森林を買い取り、半永久的に保全する活動も行われている。例えば、絶滅危惧種の生息地や、歴史的な景観を守るために、土地の所有権を市民共有のものとして管理する手法である。また、近年では「自伐型林業(じばつがたりんぎょう)」と呼ばれる、地域住民が自ら小さな機械を使って小規模に森林を経営するスタイルも注目を集めている。大規模な施業に依存せず、自分たちの手で森を守りながら副業として収入を得るこのモデルは、中山間地域の過疎対策と森林保全を両立させる新たな希望として広がりを見せている。

日本の未来へ繋ぐ森林を守る取り組みの課題と展望まとめ

ここまで見てきたように、日本における森林を守る取り組みは、法律による制度設計、税制による財源確保、技術革新による効率化、そして企業の経済活動や市民のボランティアといった多様なレイヤーで重層的に進められている。しかし、依然として課題は山積している。再造林率の低迷、林業従事者の高齢化と減少、鹿などの野生鳥獣による食害、そして気候変動による災害の激甚化など、予断を許さない状況が続いている。

これからの取り組みにおいて重要な視点は、「連携」と「自分事化」である。行政だけ、林業関係者だけが頑張るのではなく、都市の住民が国産材製品を買うこと、企業が環境配慮型の経営を行うこと、そして一人ひとりが森林の現状に関心を持つこと。これら全ての行動が一本の線で繋がった時、初めて日本の森林は真の意味で守られ、豊かな恵みを未来へと手渡すことができるだろう。最後に、今回の調査内容を要約する。

日本における森林を守る取り組みについてのまとめ

今回は日本の森林を守る取り組みについてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。

・日本政府は森林環境譲与税を導入し地方自治体の財源と権限を大幅に強化している

・森林環境譲与税は間伐や人材育成のほか都市部での木材利用促進にも活用されている

・森林経営管理制度により所有者不明や管理不全の森林への公的介入が可能になった

・意欲ある経営者への集約化と市町村による直接管理の二本柱で整備が進められている

・公共建築物等の木造化を法律で推進し都市を第二の森林にする試みが行われている

・CLTなどの新技術により中高層ビルでも国産材の利用が可能になり需要が拡大している

・ドローンやレーザー計測を活用したスマート林業が人手不足解消の鍵となっている

・ICTによるデータ管理で需給マッチングや労働安全性の向上が図られている

・企業による森林保全は単なる寄付から本業と連動したCSV活動へと進化している

・水源林保全やカーボンオフセットなど経済価値と環境価値を両立させる動きが活発だ

・FSCなどの森林認証制度が普及しサプライチェーン全体での環境配慮が求められている

・消費者が認証製品を選ぶことが間接的に森林を守る強力なサポートになっている

・NPOや地域住民による里山保全活動が生物多様性の維持と地域コミュニティ再生を担う

・自伐型林業など小規模でも持続可能な新しい林業スタイルが中山間地域で広がりつつある

・森林を守るためには切って使って植えるサイクルの確立と国民全員の参加が不可欠だ

日本の森林を守る取り組みは、長い時間をかけて育てていく森の木々と同じように、息の長い継続的な活動が必要です。法制度や技術がいかに進歩しても、最終的に森を支えるのは、私たち一人ひとりの関心と選択にほかなりません。国産の木製品を手に取ること、森へ遊びに行くこと、そして現状を知ることから、あなたも日本の美しい森林を守るチームの一員として参加してみてはいかがでしょうか。

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